【曲目解説】12月6日佐藤久成ヴァイオリン・リサイタル
12月6日の佐藤久成ヴァイオリン・リサイタルのプログラムに掲載する「曲目解説」を佐藤久成さんからお寄せいただきました。
今回、ライネッケ(シューマン、メンデルスゾーンのお弟子さんでライプチヒでこの3人は交流しています)とシューマンの師弟によるヴァイオリンソナタを前半に並べ、後半にスメタナ「わが故郷より」、ウェーベルン「4つの小品」、ゴダール「コンチェルト・ロマンティーク」などあまり演奏される機会の少ない作品を佐藤久成さんの美しく、力強い音色でお楽しみ頂けるまたとない機会です! ぜひ、お運びください。当日券もございます。皆様のご退場をお待ちしております。
※学生の方は、学生証呈示で半額2500円となります。
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注意:無断転載はお断りいたします。
PROGRAM
ライネッケ: ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 Op.116
Carl Reinecke / Sonata for Violin and Piano in E minor, Op.116
Ⅰ Allegro con fuoco
Ⅱ Andante, ma non troppo lento
Ⅲ Finale: Allegro con brio
シューマン: ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ短調 Op.121
Robert Schumann / Sonata for Violin and Piano No.2 in D minor, Op.121
Ⅰ.Ziemlich langsam – Lebhaft かなり ゆっくりと - 生き生きと
Ⅱ.Sehr lebhaft きわめて 生き生きと
Ⅲ.Leise, einfach 静かに、素朴に
Ⅳ.Bewegt 動きをもって
― 休憩 Intermission ―
スメタナ: わが故郷より
Bedřich Smetana / From my homeland
Ⅰ.Moderato
Ⅱ.Andantino
ウェーベルン: 4つの小品 Op.7
Anton Webern / Four Pieces for Violin and Piano, Op.7
Ⅰ.Sehr langsam 非常にゆっくりと
Ⅱ.Rasch 速く
Ⅲ.Sehr langsam 非常にゆっくりと
Ⅳ.Bewegt 活気をもって
ゴダール: コンチェルト・ロマンティーク イ短調 Op.35
Benjamin Godard / Concerto romantique in A minor, Op.35
Ⅰ.Allegro moderato – Rezitativ:Andante
Ⅱ.Adagio non troppo
Ⅲ.Canzonetta:Allegretto moderato
Ⅳ.Allegro molto
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PROGRAM NOTES
ライネッケ: ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 Op.116
ドイツ・ロマン派のカルル・ライネッケ(1824-1910)は伝統的書法を基とした職人気質をもち、穏健で開放感を持ったドラマ性、メルヘン性や詩情を特徴とする作曲家であり、出版された作品番号は288を越し、実際は1000曲を超す作品を残したといわれる多作家である。指揮者としてもライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督として、またメンデルスゾーンが創立した同地の音楽院の作曲教授として、グリーグ、ブルッフ、ヤナーチェク、アルベニス、スヴェンセン、シンディング、ワインガルトナー、ディーリアス、ブゾーニなど民族音楽家や国民音楽の作曲家を大量に育て、当時のヨーロッパ音楽界で重要な音楽家であった。ひとりの人間が作曲家、指揮者、教育者としてすべてにハイレヴェルな功績を残した彼は驚異的な才能としか言いようがなく、その才能はヨーロッパ音楽界のレヴェルアップに貢献した。また、当時の作曲家や音楽家から尊敬され、彼らから多くの作品を献呈され長寿を全うした。ライネッケの作品は、師匠のメンデルスゾーンやシューマンの影響を基盤とするが、後年はブラームスやワーグナーの影響を受け、室内楽曲、協奏曲、管弦楽曲、歌曲等、あらゆる分野で作品を残した。堅実で効果的に書かれたピアノパートの充実ぶりも特徴の一つである。古典的形式や19世紀的価値から一歩も抜け出さない作風というべきか、あるいは、抜け出そうとせず伝統的スタイルにこだわった彼の作品は、時代の流れに乗れず時代とともに忘れられていったが、あと10年早くこの驚くべきライネッケが生まれていたら19世紀ドイツ音楽史の全体像も変わっていたかもしれない・・・。1872年に書かれた彼唯一のヴァイオリン・ソナタは、当時の巨匠ヴァイオリニストで友人のフェルディナント・ダーフィトに献呈された。
第1楽章:アレグロ・コン・フォーコ ホ短調 6/4拍子 ソナタ形式
第2楽章:アンダンテ・マ・ノン・トロッポ・レント ハ長調 3/4拍子 三部形式
第3楽章:フィナーレ(アレグロ・コン・ブリオ) ホ長調 4/4拍子 ロンドソナタ形式
シューマン: ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ短調 Op.121
19世紀ドイツ・ロマン派を代表する作曲家ロベルト・シューマン(1810-1856)の室内楽作品を語る上で、シューマンと同い年のライプツィヒの大ヴァイオリニスト、フェルディナント・ダーフィト(1810-1873)の名を欠かすことはできない。ダーフィトは生前、作曲家としても数多くの作品を残しており、またヴァイオリン教授としても最高権威にあったが、現在ではメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の初演者として知られている以外はほとんど忘れ去られている。しかし、シューマンにとって彼はきわめて大きな影響力をもった音楽であり、その室内楽作品の多くはダーフィトの助言をもとに深い友情から生まれたものである。もともと内向的な性格と自閉的傾向をもつシューマンは3曲のヴァイオリン・ソナタを書き残したが、そのいずれもが深刻な精神障害の悪化があらわれてからの晩年の時期の作品である。「大ソナタ」「グランド・ソナタ」と呼ばれる第2番のヴァイオリン・ソナタは、壮大な交響曲風に書かれており、情熱的で濃厚なロマン的情緒と詩情を漂わせ、曲中には対位法的なポリフォニーを随所に絡ませている。1851年10月26日から11月2日にかけて一気に作曲された。ニ短調(D)という調性はダーフィトの名の象徴として頭文字を選んだといわれている。作品はダーフィトに献呈されたが、その初演は、1854年にヨーゼフ・ヨアヒムのヴァイオリンとクララ・シューマンのピアノによって行われた。
第1楽章:“かなりゆっくりと”の序奏(3/4拍子)と、“生き生きと”の主部(4/4拍子)から成る。ニ短調 ソナタ形式
第2楽章:“きわめて生き生きと”のロンド形式によるスケルツォ楽章。ロ短調 6/8拍子
第3楽章:主題はコラール「深き苦しみの淵から我れ汝を呼ぶ」に基づく、“静かに、素朴に”の変奏曲。 ト長調 3/8拍子。中間部にはシューマン晩年の悲惨で痛ましい幻視的体験や精神分裂症がまとわりついているようにみえる。そして愛の力が導き、困難を克服し、最後には天国的な思い出が響く。
第4楽章:“動きをもって”のソナタ形式による終曲。ニ短調 4/4拍子
スメタナ: わが故郷より
べドルジハ・スメタナ(1824-1884)は、当時オーストリア=ハンガリー帝国に支配されていたチェコからの独立を目指し、チェコ民族主義を奮起させ国民楽派の基礎を築いた情熱的な作曲家である。チェコ国民楽派の父といわれ、プラハの街には銅像や肖像画などが並び、チェコの国宝級の貴重な作曲家として位置づけられている。ピアニストとして教育を受け、1948年に自身の音楽学校を設立し、1856年まで大変気性の激しい音楽教師として働いた。生涯にわたり、愛娘や愛妻を相次いで亡くしたり、難聴をきたし完全に失聴したり、精神療養所で最期を迎えるなど不幸が続く人生であったが、「モルダウの流れ」で有名な1879年作の交響詩「わが祖国」はチェコ国内どころか今日では国際的な名声をもつ有名曲となり、また、弦楽四重奏曲第1番「わが生涯より」は、「変えようのない自身の運命」として感動的なドキュメントを音符で書き綴っている。ヴァイオリンとピアノのための2つの室内楽曲「わが故郷より」はその1年後、1880年頃に作曲された。チェコの伝統的な民謡や民族舞曲に関連した素材も多く使われているが、日本の童謡「かえるの歌」に似たメロディーが曲中に登場する。
第1曲:モデラート イ長調 3/4拍子
第2曲:アンダンティーノ ト短調 3/4拍子~2/4拍子
ウェーベルン: 4つの小品 Op.7
アントン・ウェーベルン(1883-1945)はオーストリア・ウィーンで生まれた。師アルノルト・シェーンベルクの妥協のない指導のもとに、無調音楽および12音技法を開拓、当時の音楽界において前衛的な音楽を打ち立て、シェーンベルク、ウェーベルン、アルバン・ベルクによる「新ウィーン楽派」を築いた。ウェーベルンの作品の特徴として、演奏時間が短い中に、極度に高い集中力と密度が内包され、非常に集約的に書かれている。点描的な絵画の技法に似た革新的かつ進歩的な作曲法である。1910年に書かれたこのOp.7は、全体で5分足らずという演奏時間の中に、表出性が濃厚に展開されている曲である。
第1楽章:非常にゆっくりと 2/4拍子
第2楽章:速く 4/4拍子
第3楽章:非常にゆっくりと 4/8拍子
第4楽章:活気をもって 2/4拍子
ゴダール: コンチェルト・ロマンティーク イ短調 Op.35
愛らしい子守歌で知られるオペラ「ジョスラン」の作曲者として、生前はフランス音楽界、特にパリでは非常に有名な人物であったといわれているバンジャマン・ゴダール(1849-1895)。弦楽器出身の彼は、フランコ=ベルギー派のヴァイオリン巨匠アンリ・ヴュータンに学び、生涯に2曲のヴァイオリン協奏曲をはじめ多くのソナタや室内楽曲を残した。作品にはワーグナーやチャイコフスキー、また恩師ヴュータンの影響も少なからず受けている。本場フランス・オペラ的性質をもった「コンチェルト・ロマンティーク」はヴァイオリン協奏曲「浪漫的」というタイトルで1876年に書かれ、ゴダールの本領が発揮された出世作であり、ヴァイオリンならではの歌謡性や華麗な技巧性、フランス的な優雅で甘美な特性が存分に織り込まれている。第1楽章は序曲的な性格をもち、全曲中で核となる第2楽章はゴダール特有の甘く切ないメロディーとセンチメンタルな色合いをもち、第3楽章カンツォネッタは当時のフランスではポピュラー並みに流行し頻繁にアンコール・ピースとして往年のヴァイオリニストに単独で演奏された小品、そして第4楽章は華やかな雰囲気をもったフィナーレだが、全曲は休みなく通して演奏される。
第1楽章:アレグロ・モデラート イ短調 3/4拍子~レチタチーフ(アンダンテ)4/4拍子~
第2楽章:アダージョ・マ・ノン・トロッポ ニ短調 2/4拍子
第3楽章:カンツォネッタ(アレグレット・モデラート) 変ロ長調 2/4拍子
第4楽章:アレグロ・モルト イ短調 2/4拍子
HISAYA SATO
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